通称ゼロクラウンに試乗した。かつては"いつかはクラウン"と言う程の憧れの存在であったこのクルマ。(以前は最後のクルマだったが今では"ゼロ"なのだ..)セルシオがレクサスLSと西洋かぶれしてしまったお陰で、再びトヨタのフラッグシップ(マジェスタ含む)に返り咲いたわけだ。クラウンというクルマは知らないうちに(?)モデルチェンジをしていると言えばよいのか、独特の雰囲気が変わらないと言う意味では凄い。私のなかで初めてV8が搭載された130系(87~91)からクラウンのイメージは変わっていない。(元々私は大の日産ファンなので、この頃は当然セド/グロ派でしたね。Y31の頃です。初代グランツーリスモ・VG30DET...) フルフレーム構造(ペリメーター型だったかな..)が一般的なモノコックに変わった150系(95~99)以降、走り重視のツーリングやアスリートと言ったグレードを展開しているがやはりメインはロイヤル系だろう。走り重視ならそもそもクラウンなんて選ばない。(ダイエットコーラみたいなものでそもそもダイエットするならコーラなんて飲むなと。)ドメスティックカーの代表選手としてその存在感は認めざるを得ない。自分でステアリングを握るか否かという意味では別として...。さて、話を戻す。今回試乗したグレードは2.5Lの上級グレード"ロイヤルサルーン"で363.3万円のクルマである。ブレイドの試乗の後、"本当の日本仕様車"とは何かを確認するべくクラウンに乗ったのだ。エンジンは4GR-FSE型のV型6気筒DOHCで直噴<D-4>である。圧縮比は12.0とハイオク指定とはいえ結構高い。215ps/6,400rpm 26.5kg-m/3,800rpm を発揮し、ミッションは6速ATと組み合わせる。1,550kgの車体で10・15モードは12.0km/Lとなかなか良好。試乗車のボディ色がブラックだったこともあり、まさに法人ショーファードリブンの雰囲気満点。全長4840mm 全幅1780mm 全高1470mm とさすが日本で使う上で大きすぎないジャストサイズ。室内に乗り込むとファブリックシートのグレー内装。またギラギラしたライトブラウンの木目調パネルではなく、こちらもグレーの木目調パネルを組み合わせるお陰でシックな雰囲気だった。ただ、各部の作りは文句なしに高級感溢れるとは言い難い。上手く表現出来ないが...見た目のボリューム感はアリなのだが、実際に触れてみると薄いプラスチック(安い素材)が多用されていることに気づいてしまう。まぁ今となっては363.3万円なんて高級とは言えない価格帯なのだと思えば納得が行く。しかし、基本的にマジェスタ(567万円~689万円)まで共通の部分が多いだけに複雑。エンジンスタートボタンを押し、エンジンに火を入れるがさすが静粛性は凄い。もちろん吸音材を多用する結果なのかもしれないが、直前に乗ったブレイドの比ではない。オプティトロンメーターのガソリン計が異常に大きくて気になった。非常にスムーズな加速は2.5Lでも充分演出される。トルク感も文句なしで+70万円(実際には3.0はカーナビが標準なので装備差を勘案すると+25万円位か?)の3.0Lは不要ではないかとすら感じる。軽くアクセルに足を添えるだけで60~80km/hの巡航をしてしまうのでインプレッションのし甲斐のないクルマではあるが、今となっては珍しいフカフカ系のシートに包まれ、軽い電動パワーステアリングを握っていると"安楽系移動体"の世界としてこれはこれで完成した価値観なのだろう。これに良い悪いと議論をするつもりはない。ただ、ステアリングの戻り(たとえば交差点を曲がったあとの復元性)が悪く、必ず最後は自分で中立まで戻す必要があるのが気になった。またブレーキを踏むと結構なノーズダイブが発生することにも違和感が残る。まぁ深いことを考えず、リヤシートに収まった方が幸せなクルマではあるが、ドライバーズカーとしても日本の渋滞路をトロトロと走りつつ、高速道路に入れば直線を排気量に任せて疾走する....やはりドメスティックカーとして”日本人の日本人による日本人のためのクルマ”として完成されている。少なくともブレイドに260万円出すくらいならば、+73万円頑張って337万円(もしくは大幅値引きを引き出して)のクラウン・ロイヤルエクストラを買った方(その代わり長く乗ると..)が価格差以上の満足感が得られることは間違いない。電車に例えればブレイドは通勤電車の"快速"みたいなもの。新幹線とは言わないが、特急型の車両(クラウン)とはそもそも出来が違いますね。VWゴルフの1.6Eは242万円で話題の1.4GT TSIが305万円と63万円の差なのだ。ブレイド比73万円の価格差とて決して非常識なレベルではあるまい。自動車評論家徳大寺氏(同じVW好きとはいえ、彼の批評はイマイチ共感できないが...)は昔から「最後はクラウンに乗る」と言っているが、その気持ちは何となく判る。クラウンの存在感を再確認出来た今回のブレイドとの比較試乗は有意義だったと言えそうだ。