3代目のスバル・インプレッサを1.5日間ほどお借りすることが出来たのでタップリと走り込んできた。グレードは1.5Lの15S(AWD)。価格は166.9万円(4AT)のモデルだ。全長4415mm×全幅1740mm×全高1475mmでホイールベースは2620mm。車両重量は1320kg。エンジンは得意の水平対向1.5L DOHC16バルブのEL15型。スバルのエンジンとしては珍しくトルク重視ロングストローク型の新世代エンジン(内径77.7mm×行程79.0mm)圧縮比は10.1で最高出力110ps/6400rpm 最大トルク14.7kg-m/3200rpmを発揮する。勿論無鉛レギュラーガソリン仕様。ミッションはスポーツシフト付のE-4AT。10・15モード燃費は14.8km/L。パワーウエイトレシオは12kg/ps。実車を前にして、個性的とは言えないがよく練られたスタイリングだと感じた。スバルがこだわる縦置水平対向エンジン(シンメトリカルレイアウト)は構造上、横置の直4エンジン車に比べフロントオーバーハングが長くなってしまう故、FRのBMW1シリーズにも通じるような独特のプロポーションが特徴だ。先代までの汗臭いスポーツ路線を捨てたことで従来の(日本の)スバルファンは少なからずアレルギー反応を示しているのかセールスも順風満帆とは言えないようだが、ワールドワイドで売っていく商品としてみれば今回のモデルチェンジは正解だと思っている。レガシィに遠慮のあった(?)スポーツワゴンを止め、今や世界的に標準ボディとなった感のある5ドアハッチ(とセダン)に絞り込んだことは評価したい。エンジンを始動すると予想以上の静粛性に驚いた。私自身、
10年前はインプレッサ(初代)を所有していたが、エンジンの騒音と振動には閉口していた記憶があるので隔世の感アリ。インテリアはこのクラスとしては珍しい大胆なカーブを描くデザインが目を引くが、カーナビが最上段に来るなど使い勝手も悪くない。電動パワステが主流になりつつある中で、インプレッサは油圧式が継承されている。元々、スバル車はステアリングインフォメーションには定評のあるクルマだったが、改めてその実力を実感。惜しいのはテレスコ機能がメーカーOPであること。(Dパッケージ 8.4万円)私のポジションではもう少しステアリングを手前にしたかった。シートはサイズ、サポート性共に不満がなかったが、熱が籠もりやすい素材のようだ。新開発のリヤサス(ストラット改めWウイッシュボーン)が効いているのか、低速時からしっとりとした路面追従性を見せる。ボディ剛性は先代とは比較にならないほど向上。ドアを閉めたときの音も「バスン」と言う感じで信頼感に富むもの。これはスバル伝統のサッシュレスドアをようやく改めた事が大きい。
残念ながら、新世代エンジン(EL15型)を持ってしても、低速トルクの不足は否めなかった。日産のHR15DE型(ティーダ・ノートなど)のように徹底して中低回転域にトルクのピークを集めた実用型エンジン(とCVTの組み合わせ)がトレンドになりつつある中で、インプレッサのパワーユニットにはあまり高得点はつけられない。前述した細いトルクに加え、車重が1320kgと物理的に重い。日産ティーダの15S FOUR(e-4WD)が1200kgである事と比べると+120kg。無視出来る差ではない。また、4ATの出来も褒められるものではない。ここ最近に試乗したクルマの中では最も出来の悪い4ATだった。変速ショックも大きいし、反応も鈍い。これら3点の要素(トルク・重量・ミッション)が絡み合う事でインプレッサの走りを残念ながら質の低いものに感じさせてしまっている。タイヤサイズは195/65R15だが、車重に対して少しプアーな印象がある。2.0Lに採用される205/55R16が1.5Lにも欲しい。スバルはCVTの老舗としてかなりのノウハウを持っているはずなのに、軽自動車以外ではCVTの開発に遅れが生じている。 縦置水平対向エンジンのレイアウトにCVTを組み込む事が容易ではないことも想像出来るのだが、スバルが生き残っていくため(水平対向エンジンを継続させるため)には必須条件だ。インプレッサには燃費指向の走りをサポートするInfo-ECOモードを採用しているのだが、現状のパワーユニットではあまりにも非力でInfo-ECOモードの走行はかなりの我慢モードになる。正直、インプレッサの1.5LはFFで乗るべきかも。重量は1260kgと4WD比で60kgほど軽量になる(パワーウエイトレシオ12→11.5kg/ps)と共に、駆動系ロスも減るだろう。FFのモデルに試乗する機会を作りたいと思う。
今回は約350km程走破した(一般国道+高速道路/渋滞・ノロノロ有り)燃費は12.9km/Lと10・15モード燃費14.8km/Lに対し達成率は87%。パワーに物足りなさがあった分、アクセルは踏み込みがちになってしまったが、燃費は車重と4WDであることを考えれば優秀な部類だろう。スバル=燃費が悪いというイメージはかなり克服しつつある。(ちなみに、スズキ・スイフト1.5XSの4WDは車重1,100kgで10・15モード値が15.0km/L)
インプレッサの面白いところは写真のようにボンネットにガスダンパーをキッチリ採用していたりすること。トヨタならこの価格帯のクルマにガスダンパーなんて検討すらしないだろうな。でもこういう部分は実際の利便性よりも買った後の満足度維持に非常に有用だ。インプレッサの一番の問題は「SRSサイド+カーテンエアバッグ」をメーカーOPでオーダーしようとすると余計なパッケージOPがセットで付帯され+30万円近くもプライスが跳ね上がる。(正確に言えば、サイド+カーテンエアバッグが含まれるメーカーOPは1通りしか選べない。抱き合わせしか選べないのだ)安全装備と快適装備をパッケージOP化してしまうスバルのセンスは理解できない。結局、今回テストした15S(AWD/4AT)に先述したメーカーOPをオーダーすると価格は166.9万円→195.8万円にアップしてしまう。要改善。さて現状、インプレッサは完全にシャシーがエンジン(を含めたパワートレーン)に勝っている状態。ある意味贅沢なクルマだが、面白味は少ない。やや辛口のインプレッションになってしまったが、これからの進化を期待した現時点。"原石"として新型インプレッサを見ればポテンシャルはかなりありそう。やはり、まずはミッションの更改からだろうな。ミッションが改善されれば◎MY HOTCAR 20◎へのノミネートも充分考えられるクルマだった。